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紅い花 (小学館文庫)

つげ 義春
おすすめ度:★★★★★
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紅い花のころ
おすすめ度 ★★★★★

「お客さん、寄っていきなせえ」とおかっぱ頭に着物姿の少女が、釣り人の男に声をかける。男は、どこかこの辺にいい釣場はないかと彼女に聞く。
「私は知りません。われシンデンのマサジに会わなんだか」と少女は答える。
やがて、わたしたちはこの少女の名前が、キクチサヨコだと軍隊の帽子を被ったシンデンのマサジという少年の
口から知ることになる。
つげ義春の名作マンガ『紅い花』である。
私はその頃、東松原にある珈琲屋でつげ義春のマンガばかりを読みふけっていた。浪人をしていた74年の話だ。
というのも、同郷の友人がこの東松原に住んでいて、彼は親戚の家に間借りしていたので、彼と落ち合う時はいつも
この店と決まっていて、彼はいつも一時間以上かならず遅刻してくるので、私は中に置かれていたつげ義春のマンガの
ほとんどを、ここでじゅうぶんに読むことができたのである。
いまでは、この珈琲屋の場所も名前もすっかり忘れてしまったが、となりに明大前という駅があり、暗めの店内は
当時の学生気分を感じさせた。
私は、何年かに一度どうもつげ義春をむしょうに読んでみたいという気持ちにおそわれる。つげのマンガとはなぜか
そのような魅力を持っていて、私以外にも、多くの人たちがそうした思いを抱えているような気がする。
いま読み返してみても、キクチサヨコとシンデンのマサジのどこの方言ともしれないユニークな言葉のやりとりや、
つげ作品の醍醐味、絶妙な風景描写のリリシズムにドキッとさせられる。
なぜわたしたちは、ときどき思いだしたようにつげ義春の作品世界に惹かれてしまうのだろうか?

表題作『紅い花』を含むつげ義春の作品集を読み直し、その余韻に浸りながら、あとがきに代わる糸井重里のエッセイ
『無力を感じる力』を読んで、はたと思い当たったのだ。
糸井は冒頭に「“お前が思っているほど、お前はたいしたやつじゃない”」と振ったうえで、この言葉の意味をたぐって
いく。
すこし長いが引用する。
「(前略)いまあらためてつげ義春を読むなどということは、もしかすると、幸福のためにはしてはならないことなの
かもしれない。
自分を“いっぱしのなにか”だと思っている若者や、仲間うちではダントツの才能を誇っている誰かが、つげ義春一発で
バタバタ倒れていくようすが目に見えるようである。
倒れてほしいのだ。バタバタと倒れて、そして起きあがってくる姿を、私は見たいのである。ちょうどいい幸福、軽い
名誉、弱々しい敬意やほどほどの嫉妬の視線などを、みんな犬にでもくれてやって、“とぼとぼ”とひとりで歩きはじめて
くれることを、昔の若者である私は願っているのである。
誰よりも、つげ義春を動かし、彼にここに収録されているような密度の濃い作品を書かせた理由こそ、“お前が思って
いるほど、お前はたいしたやつじゃない”というコトバだったのだろうから、世界はまったく皮肉にできていて愉快な
ものだ。」
ほんとうに、つげ作品が好きでしようがないに違いない糸井重里の、これからの若い読者と当時の読者へのエールにも
思えるこの冴えた文章に、私はしばらく、つげのマンガの最後のコマに押し寄せる静寂のように、唸ってしまった
のである。



わ、レヴュワーの皆さん、ガロ仲間かい
おすすめ度 ★★★★★


私的には紅い花がベスト。同級生の女の子の方が一般的にちょっとマセてて、
男の子の方が気後れしている感じを冷静に映像化。その繊細さに衝撃を受ける。
チョッと半身でこちらを見返す瞳の涼やかなこと。美しい。
海辺の叙景は秀作。ガロのもっともガロらしいセンス。押し殺したように控えめで、
ピュアな人々に注がれる作者の愛情。
李さん一家がいい。普通に考えると非常にあつかましい夫婦なんだけど、悪びれる
素振りなく、飄々とすまして2階の窓からこっちを見ている姿に、寛容を覚える。

いわゆる温泉一人旅物に見られるつげの情感:土着的な欲情、わずかな金銭に対する
執着、生命の不安、といった陰鬱がどの話にもベースとして横たわっている。
高度経済成長やら合理一辺倒やらに乗り遅れた焦燥と諦観が恥じることなく曝け出され、
その潔さに読者は安堵する。

そういや、ガロの青林堂の社長、どうしてるんだかなあ?



多品種で飽きない内容
おすすめ度 ★★★★☆

「赤い花」つげ義春の中では、叙情的で文学性の高い話になっています。
映画「キューポラのある町」で主人公が芝川の河原で同じような状況となるシーンと重なります。
「古本と少女」もありそうでないとは思うのですが、ほのぼのとした話になっています。
この他、たくさんの短編が掲載されていますが、それぞれのタッチが永島伸二風であったり、水木しげる風であったり、白土三平ぽいものもあります。
ねじ式にとらわれがちですが、これを通して本来のつげ義春が見えるんじゃないかという気がしております。



男的視点のロマンチシズム
おすすめ度 ★★★★☆

つげ義春の漫画は、まず絵がすごい。ガロ系だからタッチが細かい。つげ義春は、圧倒的に男のファンが多いんじゃないかと思う。女で好きだっていう人はあまり聞いたことがない。まず、この絵柄だと女は敬遠する。(好きな人もいるだろうけど)でも作品としては、訳が分からないけど印象的なものが多い。
この作品群の中で一番感情移入できたのは、やっぱり表題作の『紅い花』
小さい頃、よくこういう鬱陶しい男子いたよねって思い出しながら読んでいた。まとわり付いてくるいじめっ子。女の子が初潮で川に鮮血が流れ、それを見たいじめっ子の男の子がすかさず、
「紅い花だ!紅い花だ!」
と叫ぶ。私はその男の子の言葉に泣きそうになった。
たぶん女にしか分からない、必ず通り抜けなければならない性への恐怖。「紅い花だ!」という響きは、その恐怖を一気に打ち消してくれる。
男の持ってる優しさ、ロマンチシズムみたいなものが、この短い作品の中で一瞬垣間見えた気がした。



これが、つげ義春の世界です
おすすめ度 ★★★★★

この本とのお付き合いは長い。学園紛争が華やかなりし頃、一部の大学生に熱狂的に支持されたというつげ義春。大学教授が彼の作品について真面目に語っていますが、べつに難しく考えないで読めばいいのです。

この本の中でお気に入りは「海辺の叙景」。何度読み返しても胸に響くものがある。何故かと問いつめるとそれこそ精神分析の領域に入ってしまいます。本当は理屈なんていらないのですよ、つげ義春に。ちなみに「紅い花」はかつてNHKでドラマ化されました。ドラマもまずまずでしたが、やはり漫画のほうが奥行きというものが感じられます。

今の若い人は確かに奇異に感じるかもしれません。現代アニメを見慣れた人からすれば彼の作品はなんじゃこりゃと思われても仕方ないでしょう。けれど昨今のアニメが使い捨てに読まれているのに対して、つげ義春の作品はなにか心に引っかかるものがある。それです。そう感じさえすれば彼の世界に入ってゆけるのです。

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