リアリズムを超えたリアリズムおすすめ度
★★★★★
これは文句なしにおもしろい。
リアリズムを追求してやまない有吉の筆が、冴え渡る。
あまりの臨場感に、私などは和宮オタクとなってしまった。
大竹しのぶと岡田奈々というキャストでドラマ化されたのは周知であるが、ドラマにすると、原作のリアリズムには遠くおよばない。
有吉のリアリズムは、人間にとって欠かせざる行為である「食事」「排泄」「身づくろい」をこれでもかというくらいしつこく描く。「しょせん人間は生き物よ」という声が聞こえてきそうだ。
人間を隠すという場合に最も問題になるのが「食事」と「排泄」。そこを中心に描くことによって、臨場感はゆるぎないものとなる。
私は「替え玉」問題については、現在は「フィクション」と思っている。
主な理由は、徳川慶吉の助命のために和宮が書いたという自筆の手紙、これに尽きる。
この時代はテープレコーダーもなく、和宮が印璽を持っていたというわけでもない。
助命嘆願の手紙の効力とは、その真贋にかかっているわけだ。
書に優れていたという和宮本人が書いたものでなければ、相手にされない。
そんな中に、天皇本人にあてて手紙を書く、というのは、和宮が本人であったからだ。
片手問題や小児マヒについては、我々の想像を超えたなんらかの回答があるのだと思う。
だいたい、墓にあった人骨が和宮本人だという証拠はないではないか。
ロマンがひとつ消えてしまった気がするが、それでも有吉の「御留」の世界は残る。和宮オタクである私は、「御留」に書かれていない「和宮の江戸城生活」にも大いに興味があるが、そこを省いてもなお素晴らしいこの作品。
ラスト、少進が駆けつける場面は、涙なしに読むことができない。
「歴史」は時には残酷なもの・・・
おすすめ度 ★★★☆☆
時代が大きく変わろうとしていた。公武合体を選択しなければなら
なくなった徳川幕府。当時、女性は政略の道具として使われる時代
だった。自分の意思に関係なく顔も知らぬ相手に嫁がされる和宮。
しかも、行き先は京都からはるかに遠い江戸。まだ10代の少女には
どれだけつらいことであっただろう。だが、和宮を愛するものたちは
おとなしく徳川幕府に従うことはしなかった。そのことは、一人の
少女ふきの運命を変える。彼女も公武合体政策の犠牲者だった。
抗うこともできなければ完全に従うこともできなかったふき。その
運命の残酷さには涙を誘われた。激動の幕末から明治、時代の波に
のみ込まれ翻弄された人たち。歴史というのは時には残酷なものだと
感じた。