直木賞の選考では、選考委員の大先生方に「作品が長すぎる」「子供同志の会話が子供らしくない」等々の評価を受けたようであり、実際読んでみると、なるほどその通りである。しかし、その不器用さゆえ、読者に強いメッセージが伝わっているように思う。作品自体は過去と現在に起きた殺人事件を軸に展開するミステリーとなっているが、まず作者が作品を通して伝えたいメッセージがあり、その表現方法としてミステリーを選択したように感じた。とにかく「力」がみなぎった作品である。
とにかくいい。おすすめ度
★★★★★
この本に託されているのは<生きる>という事。生きる意味でも生きる価値でもない、もっと端的で根本的な意味での<生きる>。
残酷で悲しいお話です。こうじゃなければいいという読者の予感はことごとく的中していき、予想もしなかった悲劇が主人公達を苦しめます。
しかしその悲しさの後ろに隠れていた人の空回りなやさしさや努力、そこに胸を打たれます。そしてそこにこそこの本のミステリーとしての楽しみも見出しました。
主人公達は最後まで悲惨です。しかしその悲惨さの中、この後も主人公達には多くの試練があるだろうと予測させながらもでどこか爽やかな読後感、そこに作者の力量を感じました。
物語は現在と過去、二つが交互に進んでいきます。しかし文章も巧みかつ話の展開にきれがあるのですぐに引き込まれます。現在編がいいところで終わっても過去編へすっと入っていくことが可能です。
ラスト二行、泣きました。あれを泣かずして何を泣きましょう。
ミステリーとしては・・・
おすすめ度 ★★★☆☆
私としては何となくミステリーとしては中途半端な印象が…。
虐待される子供達の心情は痛いぐらいに伝わってきて、苦しいほどです。
また大人の言い訳も屁理屈ながらも、「こういうことをいう大人っていそう...」と思えるリアリティがあります。虐待の描写も生々しく、
充分読み応えがあります。ただ、その虐待の描写に物語が集中しすぎて、
ミステリーとしての殺人の動機や謎かけが甘い気がします。
それぞれが苦しんだのはすごくよくわかるけど、最後にどうしてこの人が
こういう行動に出るの?というのが、納得が行きませんでした。
しかし、「児童虐待」というテーマをここまで掘り下げたことは評価
できると思うし、ミステリーとしての醍醐味を期待しすぎなければ、
読む価値は充分ある物語だと思います。