女の恋への執念妄念 おすすめ度 ★★★★★
滝沢馬琴が晩年、視力を失い、嫁に口述筆記をさせて『南総里見八犬伝』を完成させたのは
有名な話です。その嫁の視点からこの口述筆記、ひいては嫁いでからの苦労を語ります。
嫁の路(みち)は滝沢馬琴の一人息子に嫁ぐのですが、この息子が病弱で神経質。
それに輪をかけて底意地の悪い癇癪もちの姑。神経質で細かい舅。
一度は離縁されそうになりながらも耐えている間に、夫が死に、姑が死にます。
馬琴は孫の太郎のために、貴重な蔵書を売って、御家人株を買って武家の体裁を整えます。
今もまだ盲目の馬琴の筆一本で家計を支えています。
口述筆記を通して、路が神経質と思われた舅の心を理解する様子は秀逸。
短編ですが、路のたった一度の恋をからませてまとめ上げています。
本書は連作短編で、路の周辺の女達の話。
それぞれに恋の激しさ、狂おしさがにじみ出る力作。
恋愛小説はあまり読まないのですが、引き込まれました。
「恋戦恋勝」
滝沢馬琴の口述筆記をする路。しかし馬琴から馬鹿とののしられ、
物知らずと呆れられる日々。恋戦恋勝は本当に「八犬伝」に書かれた書き損じ。
「恋は隠しほぞ」
滝沢馬琴宅の下女およねは、なぜか男好きのする女。
お使いのたびに男の長屋に寄り道をする。
「ゆすらうめの家」
馬琴の友人幸右衛門が語る、本所にあった小料理屋の話。
腕はいいが頑固な親父さんが切り盛りし、一人娘が婿をとった。
「一陽来復」
路の幼馴染千佳は、一度離縁し、一度死別し、実家で書の手習いを教えている自立した女性。
そんなとき離縁した男に再会する。
「火の壁」
馬琴は日本橋の紙問屋市兵衛に誘われて別宅に、路と太郎と出かける。
そこには壁一面の躑躅が満開であった。
「色なき風」
路の娘だが、馬琴の長女の家に養女に出したお次。
13のおてんば娘に武家屋敷への行儀見習い兼奉公の話がある。
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